太っているのではありません
太っているのではありません

肥満と健康(倹約遺伝子の話)

はじめに

 人は好きなだけ食べて呑んで、体を動かさないで楽をしていると、たいていは太って糖尿病をはじめとする病気になります。この病気が生活習慣病です。余り食べていないのに太ってしまうのは、多くの人々が「倹約遺伝子」を持っているから、という考えがあります。

生活習慣病とは

飲酒、喫煙
飲酒、喫煙
 生活習慣病は自己破壊的な疾患と言えます。

  • 食べ過ぎ、飲みすぎを含む悪い食習慣。
  • 喫煙、ストレス、運動不足などの悪い生活習慣。

 これらが原因となりますから、定期的な健康診断と繰り返す健康教育が重要となります。

 例として、悪い食習慣を続けると次のような病気がおきます。

  • 高血圧
  • 脳卒中
  • 高脂血症(血中の脂肪分が多い)
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
  • 肥満
  • 糖尿病(血中の糖分が多い)
  • 痛風(血中の尿酸が多い、足指の関節に炎症)
  • 肝硬変(肝臓の働きが不良に)
  • 消化性潰瘍

 以前は成人病と言っていましたが、生活習慣病の概念の導入には次のようなメリットがあります。

  • 成人病は年をとったらなってしまう現象ではなく、生活習慣の改善によって発症、進行を予防できるという認識で、改善活動に結びつける必要があります。
  • 生活習慣に着目した病気との概念を導入することで、「疾病の発症予防=一次予防」が強力に推進されることが期待できます。
  • 小児期から生涯を通じての健康教育が推進できます。

倹約遺伝子とは

 ここで鍵を握る倹約遺伝子の考えを理解するため、人類の歴史や新世界症候群について考えて見ましょう。

縄文人の平均寿命は15歳

縄文人
縄文人
 最近の研究では、縄文人が従来の説より高い文明を持っていたのではないか、と考えられています。しかし人骨などから推定すると、当時の平均寿命は15歳くらいだったようです。
 縄文人の現実は非常に厳しく、常に飢えの危機と感染症に相対して、生きることだけで大変でした。
 これは縄文時代人だけでなく、人間の歴史がずっとそうでした。江戸時代の一般人の平均寿命も30代だったという研究もあります。

 10万あるいは20万年前に現生人が誕生し、農業をはじめたのが早い所で1万年前、日本では2千年前です。
 農業や牧畜がはじまって、ごく一部の人たちの生活はかなり安定しましたが、、大部分の人たちは非常に厳しい状態で生きねばなりませんでした。
 農業はとても原始的なものですから、もろに気候の影響を受け、当然飢饉がしばしば起こりました。
 現在のように少なくとも食糧については心配することがなくなったのは、ごくごく最近なのです。

人類史を一日に短縮して考える

 午前0時を10万年前の人類が誕生した時期とし、現在を24時とすると・・・
時計
時計

 そうすると、わが国で農業をはじめたのが23時43分、工業が始まったのが23時59分です。驚くべき短さですね。
 つまり長い日本人の歴史の中で、お腹いっぱい食べられるようになったのは、人類史のほんの数10秒にすぎません。

遺伝子が対応できないと

飽食
飽食
 ところが人間の遺伝子というのは1万年前の、飢餓時代のままなのです。実は人間の遺伝子が新しい環境に適応するように変化するには、何と10万年くらいはかかると考えられているのです。

 この飢餓から飽食の時代への急激な変化に、遺伝子が対応するひまがなくて、現代人はいろいろな病気にかかっているのです。

倹約遺伝子型(ニール)

 そこで、アメリカのニールという学者は、人間の遺伝子の中には、『倹約遺伝型』というべき遺伝子型があるはずだという仮説を出し、多くの人に支持されています。

Thrifty gene theory /J.V. Neel、1963年

倹約遺伝子型であると・・

 食物が足りないときには、少ないエネルギー消費量で生き残れる『倹約遺伝子型』を持っている人が有利で、現代人の多くがこのタイプです。
 しかし食物が豊になると倹約遺伝子型を持っている人はかえつて不利で、肥満、糖尿病になりやすいと考えられます。

ピマ・インデアンの例

先住民
先住民
 その有名な例がアメリカのピマ・インデアンでの話です。彼らは1万5千年から2万年前に、アジア大陸からベーリング海峡をわたり、アメリカに大移動した人達の子孫です。アリゾナの砂漠に住み、ごくわずかな農耕だけで、ほとんど狩猟採集生活を続けてきました。
 19世紀の末、ヨーロッパ人が現れ、彼らの土地を奪って保護区に入れ、食糧とお金を与えました。荒野をかけまわって暮らしていた人々が、体を動かさない生活するようになった結果、急速に肥満や糖尿病にかかったのです。

 ピマ・インデアンだけでなく、古くからの狩猟採集生活を長く続け、急速に現代文明に接して、豊富な食糧に恵まれた民族が同じような健康状態になっていて行きました。これを「新世界症候群」と呼ぶようです。

日本人と肥満

 日本人も例外でなく、20年前、あるいは10年前と比較すると、成人男性の全ての年齢層でBMI(後述)が肥満の方向に大きく変化しています。
 30歳代では3人に1人が「肥満かやや肥満」と分類され、40から50歳代では4割弱が「肥満かやや肥満」です。
 女性では40歳代以降に肥満の傾向がみられます。

人の倹約遺伝子と基礎代謝

 倹約遺伝子は、これまでに何十種類以上も報告されており、日本人はこの倹約遺伝子を欧米人の2、3倍も高頻度に持っていることが遺伝子解析で明らかになっています。この働きを理解するには基礎代謝について知る必要があります。

 基礎代謝とは、じっと横たわっているだけでも消費される最小のエネルギーのことです。これらの倹約遺伝子は基礎代謝の大きさに影響しています。
 一般的に基礎代謝量は。男性は1500kcal(キロカロリー)、女性は1200kcalですが、1種類の倹約遺伝子を持っている人は200kcal基礎代謝が減少し、2種類の倹約遺伝子を併せて持っている人は300kcalも基礎代謝が減少します。

 代表的な倹約遺伝子の型と安静時の基礎代謝量を調べた研究は多くあります。
 β3−アドレナリン受容体遺伝子が倹約タイプの患者は、標準タイプの人に比べ基礎代謝量は1日当たり200kcal減少していました。
 糖尿病の患者さんの食事療法でよく1600kcalなんて指示がでますから、200kcalの重さが分かると思います。

浪費遺伝子?と基礎代謝

 人間には「やせの大食い」といって食べても太らない人と、あまり食べなくても太る人がいます。水と空気だけでも太ると嘆く人もいますが、これはありえません。
 少しの食べ物で太る人というのは『倹約遺伝子』をもっている人で、飽食の時代になって適応できなくなってしまったと考えられることは説明しました。現代人の多くがこのタイプです。現代に肥満や糖尿病の人がふえても当然ともいえます。

 いくら食べても太れない人について、この原因が最近の研究によって明らかになってきました。
 マウスでの研究の結果、いくら食べても太らないネズミは浪費遺伝子を持っていることが分かりました。この逆が倹約遺伝子であるのは言うまでもありません。
 浪費遺伝子の場合は逆に基礎代謝が200kcal増加するので、太れません。このような太れない体質の人が体重を増やしたいときは、運動をして筋肉をつけるのがよいのです。
 ちなみにこの浪費遺伝子を持つ人は日本人の16%だといいます。ケーキやステーキをバイキングで腹いっぱい食べても、体表から熱として捨てているらしいと聞いたことがあります。

サン・アントニオの事例

 アメリカテキサス州の、メキシコに一番近いところにサン・アントニオという街があり、この町ヘメキシコから移住してきた人について調べたデータがあります。
 それによると糖尿病の発症率は、同じようにメキシコから移住してきた人でも、貧しい人々に多く、学歴が高く収入の多い人に少ないことが分かりました。
 その理由は、高学歴高収入の人々は健康の知識を持ち、スポーツをしたり食べすぎないようにし、ライフスタイルに気をつけるからではないかと考えられています。
 これからの病気の治療は、健康についての知識を持ち、生活習慣を見直すことが最も重要なポイントで、さらに病気にならない一次予防が大切なのです。

大キャンペーンの結果

 アメリカでは死因の一位が心筋梗塞でありますが、政府は過去十年以上にわたって脂肪の多いものをやめなさい、健康食を、という大キャンペーンを続けた結果、心筋梗塞の発症率が減ってきました。日本食、特に寿司ブーム関係がありますね。

[作成:2005年1月1日]

続きがあります

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